Gitでの作業中、「コミットメッセージをどう書けばいいのか分からない」と悩むエンジニアは多いでしょう。コミットメッセージは、単なるメモではなく「変更の意図を正確に伝えるためのドキュメント」です。
チーム開発では特に、読みやすく一貫したメッセージがあるかどうかで、レビュー効率や履歴管理のしやすさが大きく変わります。本記事では、わかりやすく・再利用しやすいGitコミットメッセージの書き方を、具体例やテンプレートを交えて丁寧に解説します。
記事のポイント
- コミットメッセージは「変更の意図」を伝えるドキュメント → 「なぜ(Why)」を明確に書くことで、履歴の理解と保守が容易になる。
- 1コミット=1つの論理的変更(アトミックコミット) → 複数の修正を混ぜず、小さくわかりやすくまとめる。
- タイトルと本文を分けて書く → タイトルは50字以内・命令形で簡潔に、本文は「What」と「Why」を中心に説明。
- Conventional Commits(コンベンショナル・コミット)で標準化 →
feat,fix,docsなどのPrefixで変更種別を明示する。- 良い例と悪い例を比較して学ぶ → 「修正した」など曖昧な表現は避け、変更対象と理由を明確に書く。
Gitコミットメッセージの構造と書き方
コミットメッセージの構成要素
コミットメッセージは以下の2部構成が基本です。
- タイトル(Summary):変更内容の要約(1行)
- 本文(Description):変更理由や詳細説明(複数行)
タイトルと本文の間は必ず1行空けます。本文では「How」ではなく、「What」と「Why」を中心に説明しましょう。なぜその変更が必要だったのか、どの課題を解決したのかを書きます。
タイトル(Summary)を記述
本文(Description)を記述コミットメッセージのタイトル推奨記述ルール
- 命令形(現在形)で書く:例)「〜を修正した」→「〜を修正」または「修正する」
- 英語の場合、先頭は大文字・末尾にピリオドを付けない
- 日本語なら40字以内、英語なら50文字以内を目安に簡潔に
コミットメッセージの本文推奨記述ルール
- 1行72文字以内で改行する(Git logでの可読性向上)
- 箇条書きでの説明を推奨(ハイフンやアスタリスクを使用)
- 変更理由・背景・考慮点を具体的に書く
- 関連IssueやPR番号を記載:例)
Refs: #123、Closes: #456 - 実装に関する補足(既知の制限・今後の対応予定など)を加えるとベスト
Gitコミットメッセージの良い例と悪い例
良いコミットメッセージの例
fix: ログイン処理で発生するNullPointerExceptionを修正
原因: ユーザー情報のnullチェックが不足していたため対策: nullチェックを追加し、例外発生を防止ポイント:
- 「何を」「なぜ」行ったのかが明確
- チームメンバーが内容をすぐに理解できる
- 再発防止の観点も含まれている
悪いコミットメッセージの例
修正または
バグ対応問題点:
- どのバグを、どのように修正したのか分からない
- コードを見ないと意図が読み取れない
- 時間が経つと履歴の意味が失われる
コンベンショナル・コミットでメッセージの標準化
Conventional Commits(コンベンショナル・コミット)とは、Gitのコミットメッセージを標準化するための確立されたルールや仕様です。主にAngularで使われているコミットメッセージのルールが元になっています。これは、プロジェクトのコミット履歴を構造化し、読みやすさや自動化を向上させることを目的としています。
コミットメッセージのプレフィックスと規約
コンベンショナル・コミットはメッセージの冒頭にPrefix(Type)を付けることで、変更の種類を瞬時に判別できます。特にCI/CD環境では、自動でリリースノートを生成するためのトリガーにもなります。
主なPrefix例:
feat: 新機能追加fix: バグ修正docs: ドキュメント修正style: コードフォーマット調整やスペース修正refactor: リファクタリング(動作変更なし)test: テスト追加・修正chore: その他変更(ビルド設定や依存関係の更新など)
例:
feat: ユーザ登録APIに入力バリデーションを追加Conventional Commitsを採用すれば、開発者間でルールが統一され、履歴の可視化や自動バージョニング(Semantic Release)が容易になります。
良いGitコミットメッセージの重要性
コードベースの明確さと保守性の確保
Gitコミットメッセージは、プロジェクトの「履歴ドキュメント」としての役割を果たします。どんな変更を加えたのか、なぜその変更をしたのかが一目で分かることで、後からのデバッグやリファクタリング、機能追加が圧倒的にスムーズになります。特に長期運用されるプロジェクトでは、過去の変更理由を読み取れるメッセージがメンテナンス性を大きく左右します。
また、レビュー担当者にとっても明確なメッセージは強力な補助となります。レビュー対象の意図が明確であれば、コードを読む時間が短縮され、指摘内容の質も向上します。
チーム開発の効率向上とデバッグの容易化
チームでの開発では、コミットメッセージが「共通言語」として機能します。たとえば「fix: バリデーションエラーを修正」と書かれていれば、他のメンバーはその意図を即座に理解し、変更箇所を迅速に確認できます。一方、「修正した」だけでは何を修正したのか不明確で、履歴の追跡やデバッグが困難になります。
良いメッセージはチーム全体の作業効率を向上させ、問題発生時の原因究明も容易にします。特にCI/CDやデプロイ自動化と組み合わせる場合、履歴の意味が明確であることは非常に重要です。
他の開発者や未来の自分への意図の伝達
Gitの履歴は未来の自分や他の開発者への手紙でもあります。半年後や一年後、同じコードを見直したとき、「なぜこのロジックにしたのか」を思い出せるかどうかは、コミットメッセージにかかっています。短期的な説明ではなく、少し先の自分が理解できる内容を書くことを意識しましょう。
コードのWhyを記述する重要性
コミットメッセージで最も大切なのは「なぜ(Why)」の記録です。コードを見れば「何を(What)」したかは分かりますが、なぜその実装方針を選んだのか、なぜ別案を採用しなかったのかは分かりません。Whyを残すことで、設計判断の根拠が明確になり、後続の開発者が安心して変更を行えるようになります。
コミットの基本原則と粒度
良いメッセージ以前に、良い「コミット単位」が重要です。コミットの粒度が適切でなければ、どれほど良いメッセージを書いても意味が伝わりづらくなります。
- コミットは小さく、一つの論理的変更に集中する(アトミックコミット)
- 一つのコミットで「一貫した目的」を持たせる(例:関数追加、バグ修正、リファクタリング)
- 目安:変更は5ファイル以内、100行以下
- 無関係な修正が混ざる場合は、必ず分割する
- 一時的なデバッグコードはコミットしない
- コミット前に最新のmainブランチを取り込み、競合を防ぐ
- 自動フォーマッターによる差分は別コミットに分け、レビューを簡潔にする
- テストやLinterを実行し、エラーやデグレを防止する
Gitコミットメッセージの書き方まとめ
Gitのコミットメッセージは、単なる変更履歴ではなく「開発者同士の対話の記録」です。 良いメッセージを書くことで、過去の変更理由が明確になり、レビューやバグ調査が圧倒的にスムーズになり、下記のような効果をもたらします。
- コードレビューが効率化し、レビューの質が上がる
- 不具合修正やリリース作業がスムーズになる
- チーム全体の開発スピードと透明性が向上する
- 自身のエンジニアとしての信頼・評価が高まる
- プロジェクト全体のナレッジ共有が促進される
ポイントは、小さく分かりやすいコミットと、「何を(What)」と「なぜ(Why)」を明確にするメッセージ構成です。 さらに、Conventional Commitsやテンプレートを活用すれば、誰が書いても統一感のある履歴を残すことができます。
今日から「修正した」ではなく、「どこを」「なぜ」修正したのかを意識したメッセージを書いてみましょう。 それが、読みやすく信頼されるコードベースを育てる第一歩です。
以上で本記事の解説を終わります。
よいITライフを!