ステートレスとステートフルの違いを徹底解説!エンジニアが知るべき仕組みと具体例

ステートレスとステートフルの違いを徹底解説!エンジニアが知るべき仕組みと具体例

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記事の文字数:9721

Web開発の必須知識「ステートレス」と「ステートフル」の違いを徹底解説。身近な具体例から仕組み・メリット・デメリットを初心者向けに解説します。クラウド時代の設計原則や実務での使い分け、スケーラブルなシステム構築に必要な基礎知識が身につく内容となっています。


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Web開発で頻出する「ステートレス」と「ステートフル」。概念が抽象的で、その違いを正確に説明できず悩んでいませんか?本記事では、ステートレスとステートフルの違いを、身近な具体例を交えて初心者向けに徹底解説します。仕組みや設計上のメリット・デメリットを理解することで、スケーラブルなシステムを構築するための基礎知識が身につきます。現場で役立つ実践的な知識を、この記事で一気に整理しましょう。

記事のポイント

  • ステートレスは「過去を覚えない」、ステートフルは「状態を記憶する」という仕組みの根本的な違いを理解できます。
  • HTTP通信やネットショッピングのカート機能など、身近な事例から両者の具体的な挙動をイメージできます。
  • 現代のクラウド開発でステートレスな設計が重視される理由と、システムを拡張しやすくするメリットがわかります。
  • ログイン状態の維持(セッション管理)など、実務で役立つ具体的な実装の考え方や使い分けが身につきます。
  • データベースやAPI設計における適切なアーキテクチャ選定の基準を知ることで、エンジニアとしての設計スキル向上につながります。

ステートレスとステートフルの根本的な違いと定義

ステートレス vs ステートフル 過去のやり取りを覚えているか? ステートレス State-Less = 状態を持たない 150円 🥤 自動販売機 特徴 過去を覚えていない 毎回「はじめまして」 必要情報を毎回送る シンプルで拡張しやすい ✓ スケーラビリティ高 どのサーバーでも対応可能 ステートフル State-Full = 状態を持つ 「いつもの」が通じる 行きつけの喫茶店 特徴 過去を記憶している 「続き」ができる サーバーが情報を補う 管理が複雑になる ✓ ユーザー体験向上 利便性が高い

システム開発やネットワークの勉強をしていると必ず耳にする「ステートレス(Stateless)」と「ステートフル(Stateful)」という言葉。一見難しそうに聞こえますが、その核心は 「過去のやり取りを覚えているかどうか」 という非常にシンプルな違いにあります。

まず、言葉の意味から整理しましょう。

  • ステート(State): 「状態」や「状況」のこと
  • レス(Less): 「〜がない」こと
  • フル(Full): 「〜に満ちている(ある)」こと

つまり、ステートレスは「状態を持たない」、ステートフルは「状態を持つ」という意味になります。ITの世界では、この「状態」を 「過去の通信内容や操作履歴」 と読み替えると理解がスムーズです。

ステートレスとは?過去のやり取りを保持しない仕組み

ステートレスとは、 「サーバーがクライアント(利用者)の過去の情報を一切保存せず、一回一回のやり取りが独立して完結する仕組み」 のことです。

たとえるなら、 「自動販売機」 での購入体験がステートレスに近いと言えます。

  1. あなたが150円を入れてボタンを押す。
  2. 自動販売機は「今、150円が入った」という事実だけを見て、飲み物を出します。
  3. 次にあなたが買いに来たとき、自動販売機は「あ、さっきも買ってくれた人だ!」とは思いません。毎回「はじめまして」の状態で取引が始まります。

ステートレスな処理のイメージ(プログラム例)

プログラムで表すと、入力を与えたら必ず同じ結果を返す「関数」のようなイメージです。

// ステートレスな関数の例
// 何度呼び出しても、引数が同じなら結果は常に同じ(過去の計算は関係ない)
function add(a, b) {
return a + b;
}
console.log(add(5, 3)); // 結果:8
console.log(add(5, 3)); // 結果:8(前の計算を覚えていないので、常に計算し直す)

ステートレスの特徴

  • 一期一会: サーバーは前のやり取りを忘れているため、リクエスト(お願い)のたびに必要な情報をすべて伝える必要があります。
  • シンプル: サーバー側で「誰が何をしていたか」を管理しなくて良いため、仕組みが単純になります。

ステートフルとは?状態を記憶し継続性を保つ仕組み

ステートフルとは、 「サーバーがクライアントとの過去のやり取りを記憶しており、その情報を踏まえて次の対応を行う仕組み」 のことです。

たとえるなら、 「行きつけの喫茶店」 でのやり取りがステートフルです。

  1. あなたが店に入り「いつもの」と注文します。
  2. 店員さんは「はい、ブレンドコーヒーですね」と答えます。
  3. これは、店員さんがあなたの「過去の注文履歴(状態)」を覚えているから成立する会話です。

ステートフルな処理のイメージ(プログラム例)

プログラムでは、変数などに過去の情報を保存しておくイメージになります。

// ステートフルな処理の例
let totalAmount = 0; // 過去の合計金額を覚えている(状態)
function buy(price) {
totalAmount += price;
return `現在の合計金額は ${totalAmount} 円です。`;
}
console.log(buy(150)); // 結果:現在の合計金額は 150 円です。
console.log(buy(200)); // 結果:現在の合計金額は 350 円です。(前の150円を覚えている!)

ステートフルの特徴

  • 継続性: 「さっきの続き」ができるため、ユーザーにとっては利便性が高いです。
  • 複雑性: サーバー側で「誰が今どの段階にいるのか」をずっと覚えておく必要があるため、管理が大変になります。

ステートレスとステートフルの違い(比較表)

ステートレスとステートフルの違いを、いくつかの項目で比較表にまとめました。

比較項目ステートレス (Stateless)ステートフル (Stateful)
過去の記憶保持しない(毎回リセット)保持する(続きからできる)
リクエスト内容必要な情報をすべて毎回送る足りない情報はサーバーが補う
スケーラビリティ非常に高い(どのサーバーでも対応可)低い(記憶を持つサーバーが必要)
身近な例検索エンジン、自動販売機SNSのログイン、ネット銀行

どちらが優れているのか?

結論から言うと、 「どちらが優れているか」ではなく「用途による」 のが正解です。

現代のWebシステム(特にクラウド環境)では、サーバーを増やしたり減らしたりしやすい 「ステートレス」 な設計が好まれる傾向にあります。なぜなら、サーバーが記憶を持っていない方が、どのサーバーがリクエストを受け取っても同じように処理できるため、拡張性が非常に高いからです。

一方で、ショッピングカートやログイン状態の維持など、ユーザーの利便性を考える上では 「ステートフル」 な仕組み(またはステートレスな通信の上でステートフルに見せる仕組み)が欠かせません。

これらの違いを理解することは、効率的で使いやすいシステムを設計するための第一歩となります。

身近な事例で学ぶステートレスとステートフルの具体例

ステートレス vs ステートフル ステートレス (状態を保持しない) HTTP / REST API 💡 注文票方式 1回目: 「私はAさん。リンゴ1個」 → サーバー「はい、どうぞ」 2回目: 「私はAさん。バナナ1個」 → サーバー「はい、どうぞ」 毎回すべての情報を送る! ✨ メリット スケールアウトが簡単 障害に強い(可用性UP) シンプルな設計 サーバー1台→10台でも どのサーバーでも同じ結果! ... ステートフル (状態を保持する) 🛒 カート / FTP 💡 ショッピング例 操作: 商品Aをカートへ 状態: [商品A] 🗃️ 操作: 商品Bをカートへ 状態: [商品A, 商品B] 🗃️ 操作: 購入手続きへ 状態: [商品A, 商品B]を記憶! 🗃️ 前の操作を覚えている! 🗂️ FTPの例 1️⃣ ログイン (認証状態) 2️⃣ ディレクトリ移動 (場所記憶) 3️⃣ ファイル送信 (状態を使う) 💡 スケール時の注意点 状態管理の工夫が必要 (Redis・セッション共有など)

ステートレスとステートフルの概念は、言葉だけでは少し難しく感じるかもしれません。しかし、私たちの身の回りにあるサービスや、エンジニアが普段扱う技術に当てはめてみると、その仕組みは非常にシンプルです。

ここでは、具体的な事例を通して、それぞれの通信がどのように行われているのかを詳しく見ていきましょう。

HTTPプロトコルやREST APIにおけるステートレスな通信

私たちが普段ブラウザでWebサイトを閲覧する際に使っている HTTP(Hypertext Transfer Protocol) は、基本的に「ステートレス」なプロトコルです。

【補足】HTTPはアプリケーション層の観点ではステートレスです。ただしTCPのコネクションやブラウザのCookie、HTTP/2やWebSocketのような接続維持機能とは別の概念です。HTTP上でCookieやセッション、JWTを扱うことで、アプリケーションは擬似的に状態を管理できます。

1. ステートレスなやり取りのイメージ(注文票方式)

ステートレスな通信は、例えるなら 「毎回、すべての注文内容を書き込んだ注文票を渡す」 ようなものです。

  • 1回目のリクエスト: 「私はAさんです。リンゴを1個ください」 → サーバー「はい、どうぞ」
  • 2回目のリクエスト: 「私はAさんです。バナナを1個ください」 → サーバー「はい、どうぞ」

サーバー側は「さっきリンゴを買ったAさんだ」と覚える必要がありません。リクエストの中に「私は誰で、何が欲しいか」がすべて含まれているからです。

2. REST APIでの具体例

現代のWeb開発で欠かせないREST APIも、原則の一つに「ステートレス」があります。例えば、ユーザー情報を取得するAPIを呼び出す場合、以下のようにリクエストを送ります。

GET /users/123 HTTP/1.1
Host: api.example.com
Authorization: Bearer <アクセストークン>

このリクエストには「どのユーザーの情報が欲しいか(ID:123)」と「自分は誰か(アクセストークン)」がすべて含まれています。サーバー側で過去の通信内容を保持していなくても、この1通のリクエストだけで処理を完結できるのがステートレスの大きな特徴です。

オンラインショッピングやFTPにおけるステートフルな挙動

一方で、ユーザーの「一連の操作」を記憶しておく必要がある仕組みが「ステートフル」です。

1. オンラインショッピングのカート機能

AmazonなどのECサイトで買い物をする際、商品をカートに入れた後、別のページに移動してもカートの中身は保持されていますよね。これは「状態(何を入れたか)」をシステムが覚えているからです。

ユーザーの操作システムの記憶(状態)
商品Aをカートに入れるカート:[商品A]
商品Bをカートに入れるカート:[商品A, 商品B]
購入手続きに進むカートの中身は[商品A, 商品B]だと分かっている

もしこれが完全なステートレスだと、購入ボタンを押した瞬間に「えっ、何をカートに入れていたんですか?」とサーバーに聞き返されてしまいます。

2. FTP(ファイル転送プロトコル)

ファイルをサーバーにアップロードする際に使うFTPもステートフルなプロトコルの代表例です。

  1. ログインする(認証成功の状態になる)
  2. ディレクトリを移動する(現在の場所を記憶する)
  3. ファイルを送る(ログイン済みのユーザーとして処理する)

このように「前の操作の結果」が次の操作に影響を与えるのがステートフルな仕組みです。

【コラム】HTTPはステートレスなのになぜログイン状態を維持できるの? 実は、Webサイトでは「Cookie(クッキー)」や「セッション」という技術を使い、ステートレスなHTTPの上で、擬似的にステートフルな動きを実現しています。毎回「会員証(セッションID)」を提示することで、サーバーに思い出させているのです。

現代のWebシステム開発でステートレスが重視される理由

最近のクラウド環境やマイクロサービス開発では、「可能な限りステートレスに設計すること」 が強く推奨されています。それには、エンジニアにとって非常に嬉しい3つのメリットがあるからです。

① スケールアウト(拡張)が簡単

ステートレスなサーバーは、特定のユーザーの記憶を持っていません。そのため、アクセスが急増してサーバーを1台から10台に増やしても、「どのサーバーがリクエストを受け取っても同じ結果」 を返せます。

  • ステートフルな場合: サーバーAでログインした人は、ずっとサーバーAと通信し続けなければならない(面倒な管理が必要)。
  • ステートレスな場合: サーバーAが忙しければ、隣のサーバーBが代わりに処理できる。

【補足】ステートフル設計はスケールの工夫が必要(スティッキーセッション以外にもRedis等の共有ストアやセッションレプリケーションで対処可能)

② 障害に強い(可用性)

もしサーバーが1台故障してしまっても、ステートレスであれば他のサーバーがすぐに処理を引き継げます。ユーザー側に「記憶(データ)」を持たせているため、サーバーが入れ替わってもサービスが止まりにくいのです。

③ シンプルな設計

サーバー側で「誰がどの画面を開いているか」を管理しなくて済むため、プログラムの構造がシンプルになります。これは、開発スピードの向上やバグの削減に直結します。

現代のエンジニアには、 「基本はステートレスで設計し、どうしても必要な部分(決済やカートなど)だけをステートフル(またはデータベースを活用した疑似ステートフル)にする」 というバランス感覚が求められています。

ステートレスとステートフルのメリット・デメリットと使い分け

ステートレスとステートフルの使い分け ステートレス (状態を持たない) どの窓口でも同じ対応 ◎ メリット 拡張性が高い サーバー増設が簡単 障害に強い 1台壊れても継続可能 テストが楽 動作確認がシンプル ▲ デメリット 通信量が増える 毎回全情報を送信 ✓ 適用:Webサイト / API / マイクロサービス ステートフル (状態を保持) いつもの注文を覚えている ◎ メリット 利便性が高い 再入力の手間が不要 通信が効率的 短いやり取りで済む ▲ デメリット 拡張が難しい 特定サーバーに依存 メモリ消費大 多数のユーザーで負荷増 ✓ 適用:ゲーム / チャット / リアルタイム通信

システムを設計する際、ステートレスとステートフルのどちらを採用するかは、そのサービスの「成長性」や「作りやすさ」に大きく関わります。

現代のWeb開発では「ステートレス(状態を持たない)」が主流ですが、すべての場面でステートレスが正解というわけではありません。ここでは、それぞれの設計が持つメリット・デメリットを整理し、どのように使い分けるべきかを詳しく解説します。

スケーラビリティと保守性に優れたステートレスの利点

ステートレスな設計の最大の魅力は、 「システムの拡張(スケーラビリティ)」と「管理のしやすさ(保守性)」 にあります。

中学生でも分かるように例えると、ステートレスなサーバーは 「どの窓口に行っても同じ対応をしてくれる市役所」 のようなものです。あなたのこれまでの相談内容を役所側が覚えていなくても、あなたが持参した「申請書(データ)」さえあれば、どの担当者でも手続きを進められます。

ステートレスの主なメリット

  • オートスケーリングが容易: アクセスが増えたとき、サーバーの台数を1台から10台、100台へと増やす(スケールアウト)ことが非常に簡単です。どのサーバーも「過去の記憶」を持っていないため、新しく追加されたサーバーがすぐに仕事を始められます。
  • 障害に強い: もし1台のサーバーが壊れても、他のサーバーがすぐに代わりを務められます。ユーザーのデータはリクエストごとに送られてくるか、外部のデータベースにあるため、サーバーが消えてもデータが失われません。
  • テストがしやすい: 「Aという入力を送れば必ずBという結果が返ってくる」という仕組みなので、エンジニアがプログラムの動作確認(テスト)をするのが非常に楽になります。

ステートレスのデメリット

  • 冗長な情報が含まれて通信量(オーバーヘッド)が増える可能性がある: 毎回「私は誰で、今はこういう状況です」という情報をすべて送る必要があるため、1回あたりの通信データ量が少しだけ多くなります。
項目ステートレスの評価理由
拡張性◎ 非常に高いサーバーをいくらでも増やせる
信頼性◎ 高い1台壊れてもサービスが止まらない
開発の楽さ○ 比較的楽サーバー側で状態を管理しなくて良い

ユーザー体験を向上させるステートフルのメリットと実装の課題

一方で、ステートフルな設計は、 「ユーザーの手間を減らし、スムーズな体験(UX)を提供する」 ことに長けています。

例えるなら、ステートフルは 「いつもの注文を覚えている馴染みの喫茶店」 です。「いつもの」と言うだけでコーヒーが出てくるのは、店主があなたの好みを「記憶(状態)」として保持しているからです。

ステートフルの主なメリット

  • ユーザーの利便性が高い: 何度も同じ情報を入力する手間が省けます。オンラインゲームでキャラクターを動かす際など、リアルタイムで細かい情報のやり取りが必要な場合、いちいち「私はプレイヤーAで、今のHPは100で…」と送っていては反応が遅れてしまいます。
  • 通信の効率が良い: 一度つながってしまえば、「続きから」の短いやり取りで済むため、頻繁に通信を行うアプリケーションでは効率的です。

ステートフルの課題(デメリット)

  • サーバーの増設が難しい: 「特定のユーザーの記憶」がサーバーAにある場合、そのユーザーは常にサーバーAと通信し続けなければなりません(これをスティッキーセッションと呼びます)。サーバーBに繋がってしまうと、「あなたのことは知りません」となってしまうため、負荷分散が複雑になります。
  • メモリの消費: たくさんのユーザーの記憶をサーバーのメモリ(脳)に溜め込むため、利用者が増えるとサーバーがパンクしやすくなります。

クラウドネイティブな開発における最適なアーキテクチャの選択基準

現代のクラウドネイティブ(AWSやGoogle Cloudなどを使う開発)では、 「アプリケーションはステートレスに作り、状態管理は外部に任せる」 という手法がベストプラクティスとされています。

純粋なステートフル設計は管理が大変ですが、完全にステートレスだと不便です。そこで、以下のような構成をとるのが一般的です。

現代的な設計の合言葉:「外部に預ける」

エンジニアは、サーバー自体に記憶を持たせるのではなく、 「共有のノート(外部ストレージ)」 に記憶を書き込むように設計します。

// ステートレスなリクエストのイメージ(毎回IDを送る)
{
"user_id": "user_123",
"auth_token": "abc-789",
"action": "add_to_cart",
"item_id": "book_001"
}

このように、サーバーはリクエストを受け取るたびに、高速なデータベース(Redisなど)へ「このユーザーの今の状態は?」と問い合わせに行きます。

設計の選択基準

  1. 基本は「ステートレス」を目指す: Webサイト、API、マイクロサービスなどは、拡張性を考えてステートレスに設計します。
  2. リアルタイム性が命なら「ステートフル」を検討: 対戦型オンラインゲームや、チャットアプリ、株価のリアルタイム更新などは、常に接続を維持するステートフルな仕組み(WebSocketなど)が適しています。
  3. セッション管理は「外部DB」へ: ログイン状態などの「状態」は、サーバー内ではなく、Redisなどの外部メモリキャッシュに保存することで、サーバーをいつでも使い捨て(Immutable)にできるようにします。

このように、 「どこで状態を管理するか」 を明確に分けることが、現代のエンジニアに求められる高度な設計スキルなのです。

まとめ:ステートレスとステートフルの違いを理解して最適な設計を

ステートレス vs ステートフル 🔄 ステートレス (Stateless) 🏪 自動販売機 📝 特徴 • 過去を覚えない • 毎回全情報を送る • サーバー増設が簡単 ✅ メリット • 拡張性が高い • 障害に強い • 運用コストが低い 💻 REST API / Webサイト VS ステートフル (Stateful) ☕ 行きつけのカフェ 📝 特徴 • 過去を覚えている • 最小限の情報でOK • サーバー増設が困難 ✅ メリット • リアルタイム性 • 通信量が少ない • 効率的な処理 🎮 ゲーム / チャット / FTP

ここまで、ステートレスとステートフルの仕組みやメリット・デメリット、そして具体的な活用シーンについて詳しく解説してきました。

ITエンジニアとしてシステムを設計・開発する際、この2つの概念を正しく理解しておくことは非常に重要です。なぜなら、「どちらの仕組みを選ぶか」によって、システムの作りやすさ、壊れにくさ、そして将来的な拡張性がガラリと変わってしまうからです。

最後に、これまでの内容を整理し、どのように使い分けるべきかの最終的なポイントをまとめます。

状況に応じたステートレスとステートフルの使い分けポイント

ステートレスとステートフル、どちらが優れているというわけではありません。大切なのは、 「作ろうとしているサービスにどちらが適しているか」 を見極めることです。

以下の表は、それぞれの特徴を改めて比較したものです。設計の際の判断材料として活用してください。

特徴ステートレス (Stateless)ステートフル (Stateful)
記憶の持ち方過去のやり取りを覚えない過去のやり取りを覚えている
リクエストの内容1回で必要な情報をすべて送る最小限の情報(IDなど)で済む
拡張性 (スケール)サーバーを増やしやすい(得意)サーバーを増やすのが難しい
障害への強さサーバーが止まっても影響が少ないサーバーが止まると情報が消える
主な用途Webサイト、REST API、検索エンジンオンラインゲーム、チャット、FTP
中学生でもわかる例え自動販売機(お金とボタンで完結)行きつけのカフェ(「いつもの」で通じる)

ステートレスを選ぶべきケース

  • アクセス数が急増する可能性がある場合: サーバーを2台、3台と簡単に増やせるため、クラウドサービス(AWSやGCPなど)を利用した現代的なWebアプリに向いています。
  • 運用コストを下げたい場合: サーバーが「使い捨て」にできるため、メンテナンスや更新が非常に楽になります。
  • 不特定多数が利用するAPIを開発する場合: 誰がいつアクセスしても同じ結果を返しやすいため、標準的なWebサービスに適しています。

ステートフルを選ぶべきケース

  • リアルタイムなやり取りが重要な場合: 対戦ゲームや株価チャートのように、コンマ数秒の遅延も許されない、常に接続し続ける必要があるシステムに向いています。
  • 通信量を極限まで削りたい場合: 毎回すべてのデータを送る必要がないため、特定の条件下では効率的です。
  • 古いシステムの仕様を引き継ぐ場合: 伝統的な業務システムなど、構造上ステートフルであることが前提の設計も存在します。

現代のエンジニアが意識すべき「ステートレスな設計」の重要性

現代のシステム開発、特にクラウドネイティブな環境(DockerやKubernetesなどを使う環境)では、 「アプリケーション自体はステートレスに作る」 ことが鉄則となっています。

なぜなら、サーバー自体に「状態(記憶)」を持たせてしまうと、そのサーバーが故障した瞬間にユーザーのデータ(ログイン状態やカートの中身)が消えてしまうからです。これを防ぐために、以下のような構成がよく使われます。

【図解】理想的なステートレス構成のイメージ

[ ユーザー ]
↓ (リクエスト:トークンを添えて)
[ Webサーバー (ステートレス) ] ← ここは記憶を持たない
↓ (「この人の状態を教えて!」)
[ 外部データベース (Redisなど) ] ← ここに記憶を集約する

このように、「計算や処理をする場所(サーバー)」と「記憶を保存する場所(データベース)」を切り離すことで、サーバーが何台に増えても、あるいは1台が故障して入れ替わっても、システム全体としては安定して動き続けることができるのです。

実装のヒント:トークンベースの認証

ステートレスな設計を実現する際によく使われるのが「JWT(JSON Web Token)」などのトークン技術です。

// ステートレスな通信のイメージ
// サーバー側は「この人は誰か」を覚えず、送られてきたトークンをその場で検証する
{
"header": { "alg": "HS256", "typ": "JWT" },
"payload": {
"user_id": "999",
"user_name": "Tanaka",
"exp": 1715000000 // 有効期限
},
"signature": "..." // 改ざん防止の署名
}

このように、リクエスト自体に「私は誰で、何がしたいか」という情報をすべて詰め込むのが、ステートレス設計の基本です。

JWTは便利ですが、失効管理や秘密鍵管理、保存場所によるXSS/CSRFリスクなど運用面の考慮が必要です。短い有効期限と安全なリフレッシュの仕組み、必要に応じたブラックリスト(状態を持つ運用)は検討してください。

どちらを選ぶべきか?判断するためのチェックリスト

設計に迷ったときは、以下の3つの質問を自分自身に投げかけてみてください。

  1. そのサーバーは、いつでも再起動したり状態を捨てたりできますか?
    • 「はい」ならステートレス、「いいえ(データが消えて困る)」ならステートフルな設計(または状態管理の不備)です。
  2. ユーザーが100倍に増えたとき、サーバーを100台並べるだけで解決できますか?
    • ステートレスなら簡単ですが、ステートフルだと「どのユーザーがどのサーバーに繋がっているか」を管理する複雑な仕組みが必要になります。
  3. 通信が途切れたとき、再接続してすぐに作業を再開できますか?
    • ステートレスなら、次のリクエストに必要な情報をすべて送れば良いだけなのでスムーズです。

最後に

ステートレスとステートフルは、エンジニアにとって「道具箱の中にある2つの異なる工具」のようなものです。

  • ステートレスは、シンプルで頑丈、そして拡張性に優れた「万能レンチ」です。
  • ステートフルは、特定の状況で非常に高いパフォーマンスを発揮する「専門的な精密ドライバー」です。

最近のトレンドは圧倒的にステートレスですが、それはステートフルが不要になったわけではありません。 「状態(ステート)をどこで、どのように管理するか」 をコントロールすることこそが、優れたシステム設計の鍵となります。

この記事を通じて、それぞれの仕組みの面白さと、適切な使い分けのイメージが掴めたなら幸いです。これからシステムを設計・構築する際は、ぜひ「この部分はステートレスにできるかな?」と一度立ち止まって考えてみてください。その一歩が、より高品質で安定したシステム作りへと繋がります。


ITエンジニアにお勧めの本


以上で本記事の解説を終わります。
よいITライフを!
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